桜色の海に恋は沈みて

物思いに耽ることは海に潜ることに似ている気がする

言いづらいけどプレゼントが苦手

 誕生日が近付くと憂鬱になる。

 僕は持ち物へのこだわりが強い。自閉症スペクトラムの特性のひとつでもあるが、僕固有のことだと認識している。

 数年前の誕生日、当時交際していた彼女にボールペンを貰った。繰り出し式の油性ボールペンで、僕のあだ名と彼女が選んだというマークが掘られていた。一本数千円はするような高級ボールペンであることはすぐに分かった。

 僕は正直、全く嬉しくなかった。

 僕は文房具へのこだわりが強く、ボールペンはゲルインクのものしか使いたくなかった。文房具を自分で選んで買えるようになったときから変わらず同じメーカーの一本百円の同じボールペンをリピートしている。

 プレゼントされておいて嬉しくないと伝えることはさすがにできなかったので、そのときは礼を伝えて受け取った。

 けれど僕はそのボールペンの書き心地を一度だけ試して、箱に仕舞った。

 後日、彼女が僕の手帳に100円のゲルボールペンがはさまっていることを見つけた。

「ボールペン使ってくれないの?」

 責め立てるような口調だった。

 僕は誤魔化すことを諦めて正直に「書き心地が好みじゃないからごめんね」と伝えた。それ以上彼女は何も言わなかったが、不機嫌さは隠そうとはしていなかった。

 

 嬉しかったプレゼントもある。

 高校生のとき、友人が本屋へ行こうと提案したので一緒に行った。そこで友人は「もうすぐ誕生日だよね? どんな本が好きなのか分かんないから好きな本を選んできてよ」と僕に言った。

 そういうプレゼントの方法もあるのだな、とこのとき僕は知った。僕はタイトルで惹かれた漫画を選ぶと、友人がその場で会計をして渡してくれた。「ラッピングなくてごめんね」とはにかみながら言ったが、僕はとても嬉しかった。

 

 プレゼントをしようとしてくれることは嬉しい。気持ちはありがたい。けれど受け取った物を使いたいと思えないときもある。気持ちを無下にしてしまって申し訳ないな、と悲しくなるけれど、どうしてもこだわってしまう。

 自分で選ばせてくれるプレゼントはちゃんと使えるのでありがたいなと感じる。完全おまかせでなくても「この中から選んで」と言ってもらえると僕としてはとても嬉しい。

 人によっては「買い与える」ということに抵抗がある人もいる。プレゼントを選ぶ楽しみがあることも理解している。

 なのでせめて、あなたが選んだプレゼントが気に入らなくても、気に入らなかったとはわざわざ伝えたりしないから、聞かないでいてくれるとありがたいなと思う。

 祖母から貰った誕生日プレゼントは図書カードだった。

 選ばせてくれてありがとう。